6次化で地域に新しい風を 前編

2019年12月10日(火)
会 社 名:有限会社 中谷牧場
所 在 地:北海道湧別町
代表取締役:中谷友則(65歳)/現場担当:中谷理恵(31歳)/加工担当:丸山洋平(29歳)
設   立:2003年(平成15年)
資 本 金:900万円
従 業 員 数:20名(農業部門:16名、製品製造部門:4名)
事 業 内 容:酪農業をメインに、2019年より自社生乳プラントで乳製品の卸・小売業を展開
経 営 規 模:生乳生産量4400t、飼養頭数870頭(搾乳牛470頭、育成牛400頭)、作付面積350ha(牧草270ha、デントコーン50ha、小麦30ha)


オホーツク管内屈指の生乳生産規模を誇る、湧別町の(有)中谷牧場。2019年から新たに6次産業化に挑戦しています。今回は、同牧場の中谷代表、現場担当の理恵さん、加工担当の丸山洋平さんにインタビュー。生乳生産の基盤となる牧場の労働環境整備や、“地域と共生”しながら会社を発展させていくための6次化の取り組みについて伺いました。


強い経営基盤は働きやすい職場環境から

 現在、20名近い従業員が働く牧場作業を取り仕切っているのは、三女の中谷理恵さんです。近年の人材不足を受け、牧場では一部に外国人技能実習生を雇用。同時に地域の離農者も積極的に受け入れています。理恵さんは牛群全体に目を配り、朝晩の搾乳作業を行なうかたわら、従業員の配置やシフト管理などの事務作業もこなします。まさに「現場の要」として活躍する理恵さんですが、これまでスタッフとの意思疎通は様々な課題を抱えていました。



 「離農者の皆さんは、それぞれオリジナルの飼養管理や作業方法を持っています。入社した10年前の頃は、自分より経験を積んだ先輩であるスタッフ意見の衝突もあり、苦労した点はたくさんありました。私自身後継者といっても学校を卒業したばかりでしたし、女性の立場から指示されることに少なからず抵抗を感じる方もいらっしゃったのではないかと思います」

 そこで理恵さんは、年齢も経験値も自分より上の先輩スタッフに牧場責任者として認めてもらうため、飼養管理だけでなく、経営についても一から勉強をスタート。先輩スタッフと関わる中で特に大切にしたのは、それぞれの意見や管理・作業方法を重んじる点でした。



 「中谷牧場の飼養管理ルールに縛り付けるのではなく、許容範囲の中でそれぞれに仕事を任せるようにしました。これまでのやり方や経験を否定せず、むしろ生かすことで仕事に対するやりがいを感じてもらえているようです。その結果、従業員自らが主体的に考え、行動するようになりました」



 一方で代表の中谷友則さんは、6年ほど前に発生した業務上の災害をきっかけに、社内コンプライアンスを見直し。農場現場の法令順守を重点的に取り組んできました。中でも、作業免許の取得や特定自主検査の徹底、就業規則作成においては自治体や専門家と連携。これらは全て「働きやすい職場環境をつくることで従業員を守り、強い経営基盤をつくる」という代表の思いを実践したものです。現在は有給休暇の5日取得義務化への対応を前提に、牧場のシフト管理の見直しを図っています。

 人材不足と言われる酪農業において、驚異的な離職率の低さを維持している中谷牧場。従業員とのコミュニケーションや、労務管理に基づいた職場環境改善の結果が成果として表れているのを感じます。


若里ジャージーミルク工房ARVO(アルボ)



 2019年。同牧場では法人化した頃から温めてきた乳製品の加工販売を開始しました。代々受け継がれてきた酪農業の基盤がしっかりと整い、乳価や個体販売価格が上がった数年前から、具体的に新事業に着手してきました。

 同牧場の乳製品ブランドは「ARVO」と名付けられています(フィンランド語で「特別な」という意味)。ジャージー牛の生乳100%を使用しているのが特長で、生クリーム、牛乳、アイスクリーム(カップ、ソフト)、ヨーグルトのラインナップがあります。
 ジャージー牛から乳製品をつくる他の牧場は2~3頭や5~6頭規模が多い中、同牧場ではジャージー牛だけで100頭を飼養(子牛も含む)。乾乳期の牛もいるため搾乳できるのは約60頭ですが、毎日約1tの生乳を生産し、商品の安定的な供給を可能にしています。



 乳製品の製造を手掛けるのは、工場長の丸山洋平さんです。札幌出身の都会育ちで、約1年前に牧場に入社し、四女の美穂さんと結婚しました。入社するまでは乳製品加工に接する機会はありませんでしたが、酪農学園大学乳製品研究室などの専門的なサポートをはじめとして、様々な方から意見やアドバイスを頂き、日々品質向上に取り組んでいます。丸山さんは「周りからのアドバイスは我々のような“素人集団”にとっては本当に心強く感謝しています。そのおかげで今は大きな手応えを感じるようになりました。」と語ります。



 「ジャージー牛の1頭当たり日乳量は30kg前後とホルスタインに比べ少ないですが、脂肪分が高く、風味も抜群。最高の素材です。生産量の限られる生クリームや牛乳については今後、高級志向のホテルやレストランへの供給を考えており、都市部のホテルや飲食店へ積極的に売り込んでいます。特に最近は生クリームの需要が高く、品質の良いものは生産者からダイレクトに仕入れるメーカーも多いようなので販路の広がりに期待しているところです。
 高級品を作ることが目的ではありませんが、ジャージー牛の生乳は生産量が限定されるので、市場価格のバランスを考慮すると高価格帯にならざるを得ません。そこで、中間業者を挟まずに価格を抑えようと考えています。また、大量生産しやすいヨーグルトについては、学校をはじめ公共施設への供給を検討中です」


洋平さんの一日のタイムスケジュール

 洋平さん自身も早朝5時からジャージー牛の搾乳を担当し、牧場部門全体を取り仕切っている姉夫婦と連携しながら乳製品部門を盛り上げています。

 「将来的には乳牛の飼養管理についても勉強し、ジャージー牛だけの牛群をつくって生乳生産の段階から製品の品質をもっと高めていきたいですね。本当の意味での一貫性(生産から販売)を追求したいと思っていて。まずは売り上げ目標ではなく、“売り方目標”を全員でしっかり考え、その評価として売り上げが上がるような意識と仕組みづくりに取り組んで行けたらと考えています」

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後編では、6次化商品の要となる品質管理や、6次化が果たす地域との共生についての取り組みをご紹介します。


取材・文:金子 知広(株式会社オーレンス総合経営)
写真:宮部 尚樹(株式会社オーレンス総合経営)
編集:長谷川 みちる(ライター/Editor's office Bluebird)

写真協力:有限会社中谷牧場