新型コロナウィルスの企業対応【後編 よくある質問4~6】

2020年03月07日(土)
中編に引き続き、新型コロナウィルスに関する具体的な問題事例と企業対応について弁護士の観点から解説いたします。


Q4:新型コロナウィルスの感染拡大がものすごく広がった場合【いわゆるパンデミック状態】、これが一定期間続くようであれば、財政的にも苦しくなるので、従業員の賃金を一律減額することはできますか。

A4:これは労働条件(賃金)の不利益変更の問題となります。こうした問題について、労働契約法9条は「使用者は、労働者と合意することなく、就業規則を変更することにより、労働者の不利益に労働契約の内容である労働条件を変更することはできない。」という原則を宣言しています。もっとも、「ただし、次条の場合は、この限りでない。」として、労働契約法10条の要件を満たす場合に限り、例外的に、労働者個人々から同意を取らずに、就業規則の変更によって労働者にとって労働条件を不利益に変更することを許容しています。
具体的に、労働契約法10条は就業規則による労働条件の不利益変更の要件を次のように規定しています。「使用者が就業規則の変更により労働条件を変更する場合において、変更後の就業規則を労働者に周知させ、かつ、就業規則の変更が、労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の就業規則の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況その他の就業規則の変更に係る事情に照らして合理的なものであるときは、労働契約の内容である労働条件は、当該変更後の就業規則に定めるところによるものとする。」と定めています。
この条文は第四銀行事件最高裁判決(最二小判平成9年2月28日民集51巻2号705頁)の判示内容に即して成文化されたものです。第四銀行事件最高裁判決は「①就業規則の変更によって労働者が被る不利益の程度、②使用者側の変更の必要性の内容・程度、③変更後の就業規則の内容自体の相当性、④代償措置その他関連する他の労働条件の改善状況、⑤労働組合等との交渉の経緯,⑥他の労働組合又は他の従業員の対応、⑦同種事項に関する我が国社会における一般的状況等」の7つの考慮要素を示し、これらを総合考慮するとしています。
したがいまして、以上の7つの要素を検討しながら賃金減額が合理的かどうかを検証していくことになりますので、新型コロナウィルスに感染がパンデミック状態に突入したからといって、当然に一律賃金減額が有効になるわけではありません。


Q5:新型コロナウィルス対策として、一部の従業員のみを出勤させ、他の一部の従業員は自宅待機させるということを計画していますが、何か法的な問題はありますか。

A4:まず、出勤する一部の従業員の業務負担増加(労働時間の長時間化)が36協定で許容されている時間外・休日・深夜の延長可能な労働時間の範囲内におさまっているかという点が問題となります。また出勤する一部従業員への安全配慮(健康配慮)が十分かという問題もあります。これは正社員、嘱託社員、派遣社員、アルバイトなど労働契約の形態の違いで健康配慮で格差を設けてよいということにはなりませんので、十分な健康配慮のための措置が講じられているかという点は特に注意が必要です。
さらに法的な観点というよりも労務管理の観点とはなりますが、場当たり的で思い付きのような対応では従業員間で不公平感や不満がたまります。こうしたことにならないように、出勤者と自宅待機者で賃金面(出勤者に特別に手当を出すのか、自宅待機者の生活保障は十分か)をどうするか、出勤者には別途代替休暇を設けるのか、いつまで変則的な条件で出社させるのか(期間の見通し)などを、よく検討しておく必要があります。合理的で納得感のある対応が求められます。


Q6:新型コロナウィルスの感染者は出ていませんが、一部の従業員が感染リスクを理由に出社を拒否している場合、業務命令で出社させることはできますか。

A6:会社で十分な健康配慮措置が行われているならば、適法に出社命令を出し、勤務を命じることが可能です。他方で、健康配慮措置が不十分であったり、感染リスクの高い業務に従事させるといった事情があるなどした場合には、出社拒否している従業員の懸念にも合理性があり、場合によっては会社の出勤命令が権利濫用と評価される場合もあります(千代田丸事件・最判昭和43年12月24日民集93号781頁参照)。
まずは出社拒否の理由をよく確認し、改善すべき点は改善して、感染リスクを除去したり、不特定多数の人と接触する職種ということであれば感染予防措置の具体的な実施体制(マスク、アルコール消毒措置、うがい・手洗いの徹底のための適宜の休憩・職場離脱を認めるなど)を整えて、理解を得る努力が必要でしょう。この点はなかなか対応が困難な部分もありますし、ケースバイケースとなりますので、顧問弁護士とよくご相談ください。


スグスクプレミアム会員の方は、専門家へ個別のご質問・ご相談等も承っております。スグスクのお問い合せフォームまたは公式LINEよりご連絡頂きますようお願いいたします。


監修:淺野高宏(ユナイテッド・コモンズ法律事務所 代表弁護士)