感性が光る!女性の力を活かした農業経営と人材育成 後編

2020年12月29日(火)
前編では、夢想農園の堀田さんご夫婦が目指す新しい農業経営の形と、農業経営に女性がかかわるメリットについてご紹介しました。後編では、夢想農園と道の駅「ピア21しほろ」を運営管理する(株)at LOCALの人材採用の実際、人材定着率の良さの理由について伺いました。



道の駅 ピア21しほろ
所在地:北海道士幌町
(株)at LOCAL
代表取締役:堀田悠希
従業員数:24名(常勤8名)
事業内容:「CAFE KANICHI 寛一」「にじいろ食堂」
「PIA 21 SHOP」等、士幌町を堪能できる飲食店やショップを運営している。 


町の期待を背負って道の駅をプロデュース!

平29年にリニューアルオープンした士幌町の道の駅「ピア21しほろ」。町の指定管理者である商工会から、悠希さんが代表を務める(株)at LOCALが委託を受けて運営しています。




ピア21しほろでは、「しほろ牛」のメニューが豊富な食堂をはじめ、町の特産物であるジャガイモを使った「士幌スタイルフライドポテト」、こだわりのコーヒーが楽しめるカフェを併設。町民がつくる加工品や手作り雑貨、ソフトクリームなど地元のお土産を取り揃えたショップも人気があります。また、士幌産の大豆をつかった豆菓子やかりんとう、「しほろ牛」を使ったシュウマイなど、自社の農場にとどまらず士幌町全体のブランディングに力を入れています。

さらに、道の駅の公式オンラインショップも運営。スタッフは16歳から73歳までと幅広く、新入社員の中には地元の学校やインターンシップを通して魅力を感じ、入社してくれたスタッフもいます。このようにat LOCALでは、新入社員やシルバー世代など、さまざまな世代が生き生きと働いています。


悠希さんは「士幌町の食に着目し、観光客だけでなく地元の方にも愛される“町の魅力発信の拠点”にしたい」と考え、運営会社を設立。当時20代の農業女子がプロデュースする道の駅としてマスコミからの注目度は高く、リニューアルオープン初日には町民より多い8,000人の来場者があったそうです。

取材当日は平日にも関わらずレストランは満席。野菜や加工品の販売スペースにも多くの人たちが集まり買い物を楽しんでいました。道の駅で野菜を直売する農家の戸数はリニューアル当初13戸でしたが、現在は27戸へと拡大。士幌町の魅力発信の重要な拠点となっています。


「夢想農園の生産物を道の駅で販売し、レストランでそれらをふんだんに使った料理をお客様へ提供する。こういった取り組みを通して自分たちの生産物の評価をリアルに感じられることは、やりがいにつながります。農業生産を中心に、直販事業とレストラン運営といった消費者とのつながりを持つことが、自分たちなりのアグリツーリズムです」と隆一さん。夢想農園と道の駅運営の相乗効果で経営に対する手ごたえを感じているようです。


人育てのファーストステップ<採用>

道の駅の管理運営のオファーを引き受けるにもしても、農場を発展させるにもしても、人を育てることは企業経営にとって非常に重要です。堀田さんご夫婦は早くから“人に秘められた可能性”に着眼し、人材の採用・育成に力を入れてきました。

まずは、人を育てるためのファーストステップである人材採用について。夢想農園とat LOCALの面接では“マストクエッション”が2つあるといいます。

1つ目は、体が健康か。今までの病歴、メンタル面も含めて確認します。どんなに健康そうに見えても、意外と過去に大病していたり、精神疾患を抱えていることがあるからです。そして2つ目は、家族構成。どんなところで生まれ、何人家族で、どんな幼少期を過ごしたかについて可能な範囲で質問します。


「“過去に大病していたから不採用”ではなく、それぞれの過去を理解し、気遣いながら共に働いていきたいと思っています。そして、幼少期の思い出に触れることは、その人の人柄や、生き方に少しだけ触れられる気がするのです」と悠希さん。



採用の判断は基本的に隆一さんと悠希さんの2人で行ないますが、面接を受けに来てくれた方は、ときには隆一さんのお母様や社員と1時間一緒に働いてもらっているのだそう。堀田さんご夫婦と異なる視点の人物評価を、今後の人材採用・育成の参考にするためです。


「相手の人物像を詮索するよりも、企業理念をはじめ仕事や人、想いを“共有する時間”を長く取るようにしています。最終的に働いてもらえる職場であるかを決めるのは、私たちではなく、志望してくれた方だと思うからです。今まで100人近くの面接を実施しましたが、私たちから不採用を通知した方はいません。それでも『ちょっと違うかな?』と感じる方には、まずはアルバイトで挑戦してもらいます。そうすると、相手の方から離れていくことが多いです」


人育てのネクストステップ<人事評価と職場改善>

多くの従業員やパートを抱える中、一人一人の適性を見定めながら、人事評価や職場改善を行うのは非常に難しいもの。堀田さんご夫婦は、どのようなことを大切に人材育成や仕事環境を整えているのでしょうか。


●将来ビジョン(農場・スタッフ個人)と目標設定(at LOCAL)
1年の始まりに事業計画の発表会を実施。経営目標と売上目標を悠希さんから発表。売上目標は部署ごとに月単位で細かく出す。各部署の目標は、部署の担当者が考えて発表する。

●業務上での役割分担、適材適所な配置(夢想農園)
夢想農園では、直販、選果場作業、防除や機械仕事といった外仕事など、ざっくりと担当者割を行う。日々の役割については朝の朝礼で1日の作業内容を打ち合わせして、従業員それぞれの1日スケジュールとパートの配置を決定する。

●仕事の評価、待遇への反映(夢想農園・at LOCAL)
夢想農園では経営移譲1年目のため、しっかりとした評価制度を設けられていないのが実情。at LOCALでは、役職手当をつけている。最近は社会保険労務士と相談しながら賃金プログラムを設計し、仕事と給与の評価の見える化も進めている。



また、従業員に気持ち良く働いてもらうための基本として「従業員の主体性を大切にしています」と語る悠希さん。農業は日々淡々とした仕事が多いものですが、スタッフがやってみたい仕事、やりたいことはなるべく実現できるようにしています。

例えば、DIYが得意なスタッフが『ハウスにある袋やダンボールなどの資材が乱雑に散らばっているので、整理する什器を作りたい』と申し出てくれたことがあったそう。その思いを尊重し、予算と計画から材料調達、制作までを自ら手がけてもらいました。

「これが職場の文化として根付きはじめると、それ以来、資材が散らばることなく整理整頓を全員が心がけるように。さらに、それぞれが進んで職場環境の改善に取り組んでくれるようになりました。スタッフの“やりたい”をすぐに叶え、それが日々の農作業のモチベーションになったり、当事者意識の向上へと繋がることを望んでいます」



消費者の顔が見える農業経営に挑む隆一さんと、女性ならではの感性を活かした事業構築と人材育成にまい進する悠希さん。昨年には待望の第一子を迎え、ますます農業の価値の向上や地域ブランドづくりにも力が入ります。もちろん二人の目指す未来には、従業員やスタッフが生き生きと活躍する姿があります。堀田さん夫婦の二人三脚による挑戦は、まだまだ続きます。



取材・文:金子 知広(税理士法人オーレンス税務事務所)
写真:宮部 尚樹(株式会社オーレンス総合経営)
編集:長谷川 みちる(ライター/Editor's office Bluebird)