付加価値の証明だけじゃない。働きやすい環境が生まれるGAP認証 前編

2020年06月19日(金)
【基礎情報】
株式会社ナガホロ
所在地:北海道中標津町
代表取締役:永谷芳晴(50歳) 設立:2011年(平成23年)
資本金:300万円
従業員数:4名
事業内容:約10年前に離農跡地を購入し、酪農専業の牧場を開業。A2ミルク※の指定生産者として生乳を出荷し、令和元年12月には生産工程の管理を目的にJ-GAP(日本独自のGAP)の認証を取得。粗飼料はおもに町内のTMRセンターから供給を受けている。
経営規模:生乳生産量700t 飼養頭数:搾乳牛80頭、育成牛70頭 

食の安全・安心の観点から広がっているGAP認証。商品に対する付加価値としての意味合いが強いかもしれませんが、実は農場を「働きやすい環境に整える」というメリットもあります。今回は認証の詳細には触れませんが、GAPの基本である工程管理を導入した(株)ナガホロの事例をご紹介します。


あらためてGAPとは?食の安全・安心に対する消費者傾向

 GAP(Good Agricultural Practice)とは農業生産工程管理のことで、「農場運営」「食品安全」「家畜衛生」「環境保全」「労働安全」「人権・福祉」「アニマルウェルフェア」の視点から「適切な農場管理」についてまとめられたものです。具体的には、生産活動の持続性や食品安全などの関連法令を守るための点検項目を定め、点検・評価を繰り返す取り組み。第三者機関の審査を経て、国が認証しています。



認証を受けると、工程管理の仕組みが整備された農場として評価されます。農産物に付加価値が付いたり、場合によっては取り引きの選択肢の幅が広がるでしょう。消費者が食品に対する安全性に着目するようになり、最近では生産者にGAPの認証取得を求める大手流通業者も増えてきました。さらに、オリンピックの選手村で使用する食材には同認証の取得が条件とされています。


JGAP導入のきっかけとなった“A2ミルク”



 (株)ナガホロでは、2019年にJGAPの認証を取得しました。認証へチャレンジするきっかけとなったのは、平成30年12月から生産しているA2ミルクの存在です。A2ミルクとは、「A2タイプのβ(ベータ)カゼインだけが含まれる牛乳」のこと。体質的に牛乳を飲むことができない人でも飲用可能な牛乳として注目されています。
 牛乳を飲むとお腹を壊す原因の多くは、牛乳に含まれる糖をうまく消化できない「乳糖不耐症」。もしくは、カゼインというタンパク質(なかでもA1タイプのカゼイン)が原因であると言われています。そもそも牛乳に含まれるβカゼインには、「βカゼインA1」と「βカゼインA2」の2タイプがあります。ホルスタイン種は生乳中にA1タイプとA2タイプの両方のβカゼインを産出する系統と、A2のみを産出する系統(さらにA1のみを産出する系統)と遺伝的に分けられますが、A2タイプのβカゼインのみを産出する乳牛の生乳でつくった牛乳を「A2ミルク」と呼んでいます。

 A2ミルクは20年以上前にニュージーランドの乳業メーカーから販売されていますが、日本で注目されるようになったのはここ数年のこと。出荷乳量も生産農家も限られることから、飲んだことがない消費者が多いと思います。それでも最近ではニュージーランドの乳業会社が独占的ライセンス契約でカナダ市場へ進出するなど、A2ミルクの市場価値や注目度には高いものがあります。


付加価値を確かなものに



 このA2ミルクにいち早く目をつけたのが、(株)ナガホロの代表取締役である永谷さんを含めた新進気鋭の若手酪農家グループでした。当時からゲノム評価を使った乳牛の改良について勉強会を開いたり、定期的に情報交換を行なっていましたが、知れば知るほど奥の深い乳牛改良を自分たちの牧場経営改善だけで終わらせるのではなく、所属する中標津町農協のバックアップもあり、地域酪農を盛り上げるために活用したいと思うようになったそうです。
 当時A2ミルクが国内流通することは稀でしたが、海外では話題を集めていたこともあり、地元農協の協力を得ながらA2ミルク生産と商品化までの道筋を整えました。A2ミルクの生産開始から3年が経過し、現在同社での出荷量は日量で500〜1,000L(分娩時期によって生産量に差があるため)。生産も軌道に乗り、A2ミルクの認知度も徐々に上がっています。


一方でA2ミルクは、専用のミルクローリーで集荷され、中標津町農協の乳製品工場では専用ラインを使って製造されます。当然、生産者側も専用のバルククーラーを用意。A2ミルクと通常の生乳で作業もバルクも完全に分ける必要があるため、実に多くの手間がかかります。
 このような苦労を経て良質な食品を作ったとしても、安全性が担保されていなければ従業員の努力が無駄になってしまう。そう考えた永谷さんは、JGAP認証の取得に向けて動き出します。

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後編では、JGAP認証を取得した理由と具体的なメリット。現場で働く従業員の声についてご紹介します。


取材・文:金子 知広(株式会社オーレンス総合経営)
写真:宮部 尚樹(株式会社オーレンス総合経営)
編集:長谷川 みちる(ライター/Editor's office Bluebird)