感性が光る!女性の力を活かした農業経営と人材育成 前編

2020年12月21日(月)
基礎情報



少子高齢化に向かう日本では、次世代を担う人材確保が企業経営の共通の課題になっています。農業経営においても避けて通れない“人材育成”。この課題に、女性の感性を活かして取り組む農業経営者がいます。今回は十勝管内士幌町の堀田隆一さん・悠希さんご夫婦に、これからの農業経営に対する想いや人材育成の在り方、自社の採用活動などについて伺いました。



自分たちらしい農業の形を追い求めて

夢想農園の代表を務める堀田隆一さんはご両親の下で親元就農し、2020年に経営を移譲。現在、経営のベースとなる基幹作物(馬鈴薯、ビート、小麦)は農協へ出荷し、全体の約1割は西洋野菜などを作付けして卸業者や飲食店と直接取引しています。

「父の時代はバブルの真っ只中で、努力がそのまま生産物の値段に反映される時代でした。バブルがはじけて以降は、相場が下がれば売値にもダイレクトに影響がおよび、商品の利幅が下がるリスクを感じてきました。労力に見合った売り上げに繋がらないことや、作った野菜がどこの誰に届いているのか全く分からない現状に物足りなさを覚え、お客さんの顔が見える仕事をしたいと思うように。そこで、自分たちの想いや品質を認めてもらえる業者との直接取引を自分の代から始めました」


左から堀田隆一さん、悠希さん

直接取引の経験があまりなかった先代には、取り組みを反対されたこともありました。少量ずつの直接取引は手間がかかり、売り上げの割に悠希さんの事務作業ばかりが増える様子を見かねて、「こういう意味のないことはやめなさい」と強く言われたこともあったそうです。「そのあとの1年間は、義父とはひとことも口をききませんでした(笑)」と悠希さんは振り返ります。

しばらくは販売方法や販路拡大に奔走しましたが、強い意志と腹をくくる覚悟を持ち、従業員や地域の人たちの支えもあって年々着実に成果を出し続けました。その結果、「先代と頻繁に経営の話をするようになった」ほど、今では二人のよき理解者になってくれているそうです。


ところで季節によって仕事量の差が大きい畑作では、通年雇用の課題が多いもの。農繁期を過ぎると仕事が極端に少なくなるため、安定した雇用確保が農業経営者の共通の悩みとなっています。夢想農園では先代の頃から冬季間の作業を増やすため、ハウス5棟で水菜を栽培したり、遮光栽培用ハウスでチコリーの栽培を始めました。


十勝管内では、若手農業者を中心に新しい作物に挑戦する風潮があります。営農の中心は基幹作物の作付けですが、性能が向上した機械への投資により収穫作業を省力化し、余った時間でニンニクやブロッコリー、長ネギなどを作付けして地域や農協単位のブランドに育てていこうとする動きです。夢想農園でも今後、品目をある程度まで絞りながら、それらを常時出荷できる体制を整えて市場の要望に応えようとしています。

「ただし作付けの考え方の原点は、“自分たちが食べて美味しく、作ってワクワクすること”にあります。時代の流れや自分たちを取り巻く環境なども加味しながら、私たちらしい農業の形を追求していきます」とご夫婦そろって思いは一緒です。



女性のキャリアを活かしたい!!

ここから話題の中心は、女性経営者として活躍する悠希さんに。

結婚前は十勝管内の農協職員として事務・販売・管理を担当していた悠希さん。非農家の出身ですが以前から飲食業や会社経営に関心があり、結婚後は幅広い分野から「食」に携わってきました。現在は夢想農園の経営を手伝いながら、加工・販売・飲食店運営を事業とする(株)at LOCALの代表取締役を務めています。



結婚当初、悠希さんはある違和感を持ちました。それは、生産者の会合に出ても「農家の嫁」は名刺交換すらしてもらえないという事実。女性農業者の地位の低さに対する違和感でした。

「結婚して農村にやってきた女性たちにはさまざまなキャリアがあり、歩んできた人生もいろいろ。企業での経理や販売業務、栄養士として働いてきた方など多彩な資格や経験を持っているのに、これまでの素敵なキャリアがゼロになってしまうのはもったいないと思いました。日々の農作業を仕事の中心に置きながらも、それぞれのキャリアを活かすことで女性農業者の役割や生きがいを見つけ、農業をもっと魅力ある仕事(職業)にしていく必要があるのではないでしょうか」と、悠希さんは農業において女性のキャリアを活かすことが大事だと力説します。




悠希さんは2014年、平均年齢30歳の女性でつくる勉強会『とかち女性農業者ネットワーク 農と暮らしの委員会』を立ち上げました。ネットワークでは地元食材の料理レシピを披露したり、農業イベントやラジオ番組の出演を通じて女性農業者の生き方や働き方をアピールしてきました。

さらに、道の駅立ち上げのために実施された町民懇話会に委員長として参加したことがきっかけとなり、道の駅の管理運営者として悠希さんに白羽の矢が。女性に秘められた力と可能性、女性の地位向上を訴えるリーダーシップが認められたのです。



女性が経営に関わると儲かる!?

女性の持つ能力や視点を農業経営(農作業)に活かすことで、実際にどのようなメリットがあるのでしょうか。肌感覚だけでなく、具体的に効果を示しているデータをご紹介します。



日本政策金融公庫の統計によると、女性が農業経営にかかわる度合いが高いほど、経常利益の増加率も高くなることが分かります。また、次のような特徴が読み取れます。

〇経常利益率が高い経営体や経営の多角化に取り組んでいる農場ほど、女性が経営方針の決定に参加する傾向が強い。
〇女性役員・管理職がいる経営は、いない経営と比べて経常利益率が向上する傾向にある。


なぜ、女性が農業経営にかかわることで利益率が向上するのか。その理由の一つとして考えられるのが、人育て(人材育成)です。女性は主婦(消費者)としての目線を持っているだけでなく、周囲への細やかな気配りや感受性の高さなどを兼ね備えています。彼女たちの感性が新規事業や販売戦略、さらにはスタッフ同士のコミュニケーションや仕事環境の改善などにも大いに力を発揮すると言われています。



データを裏付けるように、悠希さんが代表を務める(株)at LOCALでも人材育成に定評があります。オープニングより努めている社員とパートが8割、定着率が非常に高いのが特長です。生き生きと仕事をするスタッフの影には、一人一人の成長を見守る女性ならではのきめ細かさが活きているのかもしれません。「人は愛情で育つもの」と話す悠希さんの言葉には重みを感じます。


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後編では、夢想農園とat LOCALの人材採用や育成方法、女性の感性を生かした働き方改革の取り組みなど、具体的な実践の様子をご紹介します。


取材・文:金子 知広(税理士法人オーレンス税務事務所)
写真:宮部 尚樹(株式会社オーレンス総合経営)
編集:長谷川 みちる(ライター/Editor's office Bluebird)